ナプキンが試合中に落下、柔道着が血で染まる…。アスリートの生理の悩みを解決するためのパンツとは

口にしづらい生理の悩み。声をあげてもいいと伝えるパンツを、アスリートが作りました
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生理のあるアスリートにとって悩みの一つが、試合や練習中の「ナプキン落下」だ。

そう話してくれたのは、サッカークラブ「スフィーダ世田谷FC」に所属する下山田志帆選手。下山田さんもナプキンを落とした経験や、落としそうになって慌てた経験がある。

「1度目は試合中、ゴール前に相手選手が攻め込んできてピンチになった時に、ナプキンが落ちかけてしまったんです。慌てて片手でナプキンを止めながら、なんとか相手のシュートをブロックをしました」と下山田さんは話す。

ナプキンはぐちゃぐちゃになっており、下山田さんはシュートをブロックした後にナプキンをズボンの隙間から引っ張り出して、グランドの外に投げ捨てたという。

他にも、往復で走る練習をしている時にナプキンを落とし、落下後は自分のナプキンの上を走らなければいけなかった、と下山田さんは振り返る。

アスリートにとってナプキン落下は珍しいことではなく、元サッカー選手の内山穂南さんも、試合中などに落ちているナプキンを見たことがあると話す。

「結構なサッカー選手たちが見たことがあるんじゃないかなって思っちゃうくらいに、あるあるですね」

選択肢を自分たちで作りたい

日常生活であれば、ナプキン落下はあまり起きない経験かもしれない。

しかし「激しく体を動かす、ユニフォームが絞れるほど汗まみれになる、水たまりにスライディングするといったアスリートを取り巻く環境では、ナプキンは吸収力を失ったり、外れやすくなったりする」と下山田さんは説明する。

下山田さんと内山さんは2019年、「アスリートを表現者にして、社会に問題提起をする」会社、レボルトを立ち上げた。そこで最初に取り組もうと思ったのが、生理の問題だ。

(左から)内山穂南さんと下山田志帆さん
(左から)内山穂南さんと下山田志帆さん
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ちょうどその頃、日本でも吸収型サニタリーショーツが広まり始めていた。

吸収型ショーツは、ショーツそのものが経血を吸収するためナプキンを使わなくていい。生理用品で悩んできた下山田さんや内山さんにとって「画期的だ!」と思える商品だった。

その一方で、ふたりが目にしたブランドの多くはレース柄や股に食い込むタイプなど、普段ボクサーパンツを好んではく下山田さんたちが、選びたいと思えるものではなかったという。

「選択肢がないなら自分たちで作ろう」と考えたふたりは、繊維商社・株式会社ヤギと協力して、吸収型パンツの開発を始めた。

アスリートから集まったリアルな悩み

最初に取り掛かったのが、アスリートたちの声を聞くこと。554人のアスリートにアンケートを実施して、生理の困りごとを聞いた。

その結果、97%のアスリートが何かしらの悩みがあると回答した。

一番多かったのが「蒸れる」で81%。他に「ずれる」が72%、「漏れる」が59%、「臭う」が29%、そして「落ちる」は7%のアスリートが経験していた。

さらに30人を対象にしたヒアリングから、こんなリアルな悩みが集まった。

・試合中に生理が始まって、足を上げる動作が全然できなかった

・ゴールキーパーなのだが、地面に滑る動きが多いので、雨が降って濡れている時に練習をするとナプキンがぐちゃぐちゃになる

・ウォーミングアップから帰ってきてユニフォームに着替える時、集中したいのにナプキンも取り替えに行く時間がすごく邪魔に感じる

・相手チームの監督の前でスライディングをして、ナプキンを落としてしまった時はすごく恥ずかしかった

・柔道の道着が真っ白なので、血がモレて道着が赤く染まってしまうことが日常的にある

・ラグビーでスクラムを組む時に、自分のお尻のすぐそばに味方の顔があるので、生理の時はニオイやモレが気になってしまう

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2つのこだわり

自分たちの経験から、アスリートたちの悩みを聞いて「ああやっぱり」と思ったという下山田さんと内山さん。

そういった悩みを解決するための吸収型パンツを作るにあたり、2つの点にこだわった。

1つ目は、アスリートレベルの動作環境でも満足できるクオリティを実現すること。

「アスリートは、普段する行動以上の動きをします。そして自分自身でコントロールできない環境下にいます。だから、アスリートがはいてよかったものは、誰がどんな環境でも安心してはけるものになると思いました」

アスリートが満足できるクオリティにするため、「立体成型ニット」と呼ばれるストレッチ性とフィット性に富んだ生地を使い、さまざまな体型にフィットして大きく動いても対応できるようにした。

また、モワモワとしたムレを感じない速乾性のある素材や、液体の菌を増殖させない抗菌防臭機能がついた素材を使用することで、アスリートレベルのコンディションでも履いた時の不快感を軽減した。

もう一つのこだわりは、デザインだ。

下山田さんはこれまで、パンツだけではなく生理用品を選ぶ時にも、花柄やピンクなど“女性らしさ”を強調した製品が多いことに、苦痛に感じていた。

「女性用プロダクトの中にも、ジェンダーステレオタイプがあると思うんです。生理用品も、花柄や明るい色使いなど普段は自分が選ばないデザインばかり。だけど絶対に使わなきゃいけないものなので、なんでこれを使っているんだろうと感じながら、使ってきました」

レースのデザインももちろんあってもいいが、自分たちは別の選択肢を提供したい。

ジェンダーステレオタイプにとらわれない、クールでかっこいい製品にすることにこだわったと下山田さんは話す。

楽になったの声

アスリートが満足できるクオリティとクールなデザインにこだわって出来上がったのが、吸収型ボクサーパンツ「OPT」だ。

OPT
OPT
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生理の長さや経血量は人によって違う。そのため、生理の期間はOPTだけで1日中過ごせるという人もいれば、2日目はナプキンやタンポンと併用した方がいいという人もいた、と下山田さんは話す。

例えば内山さんは2日目でもこのパンツだけで1日過ごせるが、下山田さんは2日目だけタンポンを併用する。

他のアスリートたちにも試しばきをしてもらい「すごく楽になった」「生理用品を買いに行かなくてよくなった」などのポジティブなフィードバックが集まったという。

パンツで問題提起

OPTは現在、クラウドファンディングで先行発売中。2021年夏からはECサイトで一般販売する予定だ。

下山田さんと内山さんは、かなりのアスリートが生理で悩んでいるのに、その声が全然表に出ていないということをアンケートやヒアリングを通して実感したという。

これまで「アタリマエのこと」として我慢を強いられてきた生理の不快感や苦痛。それを声をあげることで変えられると伝えていきたい、とふたりは話す。

「生理の悩みって喋っちゃいけないとか、恥ずかしいものだと思われている部分があると思います。OPTを通して、女性の体の悩みって声をあげてもいいものだよねっていう問題提起ができればいいなと思います」

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