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焦点:ミャンマー国民の心つかめ、軍政と反体制がSNSで「情報戦争」

2021年11月06日(土)08時27分

 11月2日、ミャンマーの軍事政権が街頭での抗議行動の沈静化を図る一方で、ソーシャルメディア(SNS)上でもそれと並行する戦いが展開されている。写真は道を挟んでにらみ合う警察と軍事クーデターに反対する人々、3月にマンダレーで撮影された提供写真(2021年 ロイター)

[シンガポール 2日 ロイター] - ミャンマーの軍事政権が街頭での抗議行動の沈静化を図る一方で、ソーシャルメディア(SNS)上でもそれと並行する戦いが展開されている。軍事政権の戦術に詳しい8人の情報提供者によれば、同政権側ではフェイク(偽装)アカウントを使って反対勢力を批判し、「国家を不正選挙から救うために権力を奪取した」というメッセージを強要しているという。

オンラインプラットフォームとしてミャンマー国内で主流であるフェイスブックは、2月1日のクーデター以来、ミャンマー軍のアカウントを停止した。これに対し軍は数千人の兵士を動員し、一般に「情報戦」と呼ばれている行為に従事させている。軍関係者4人を含む上述の情報提供者らが明らかにした。

彼らがロイターに明かしたところでは、ソーシャルメディア上での運動は、軍による全般的なプロパガンダ作戦の一翼を担っている。国民に軍事政権の見解を拡散するとともに、反政府勢力を監視し、オンライン上で裏切り者として攻撃するのが任務だという。

ニイ・スータ大尉(31)は2月末に軍を離脱し、反政府勢力に身を投じた。ニイ・スータ氏は「兵士らは偽装アカウントを複数開設した上で、特定のコンテンツ領域や論点で投稿するよう命じられる」と語る。「彼らはオンラインでの活動を監視し、(反クーデター側の)オンライングループに参加して、その動きを見張っている」という。

同氏は、離脱するまで軍のプロパガンダ作戦に参加し、軍トップであるミン・アウン・フライン国軍司令官の演説原稿を書いていたという。

SNSにおける戦術について軍事政権の広報官に繰り返しコメントを求めたが、回答は得られなかった。広報官は9月、国軍が所有する「ミャワディ・テレビジョン」で、国内情勢に関する「フェイクニュース(偽情報)」を拡散しているとしてメディア企業グループと反政府活動家を非難した。

SNS上での軍事政権の動きに詳しい8人の情報提供者は、報復を受ける恐れを理由にみな匿名を希望しているが、上述のニイ・スータ氏と、4月に軍を離脱したリン・テット・アウン大尉の2人は例外だ。

「タッマドー」と呼ばれる国軍は、文民指導者であるアウン・サン・スー・チー氏を失脚させてから9カ月、街頭での抗議行動を鎮圧する一方でオンラインでのキャンペーンを推進。同氏が率いる国民民主連盟(NLD)が、不正により2020年11月の選挙に勝利したと主張している。ただ国際的な選挙監視団は5月、投票は公正に行われたと報告している。

2021年に入ってからのSNS投稿数千件をロイターが検証したところ、約200人の軍関係者が、フェイスブック、ユーチューブ、ティックトック、ツイッター、テレグラムなどのサイト上で、個人アカウントを使って、選挙における不正行為を告発。反クーデター派の抗議参加者を、裏切り者として非難するメッセージや動画を定期的に投稿していた。

100件以上の事例では、メッセージや投稿が数分以内に数十の模倣アカウントによってそのままシェアされ、複数のオンライングループや、国内のセレブやスポーツチームの応援チャンネル、ニュース配信を装うチャンネルでもシェアされていたことが、フェイスブック傘下のオンライン追跡ツール「クラウドタングル」のデータによって明らかになっている。

多くの場合、投稿は軍事政権に反対する人々を「国家の敵」「テロリスト」呼ばわりし、国軍、国家、仏教の破壊を望んでいるなど、さまざまな表現を使っている。

反政府活動家の多くも似たような手法をいくつか使っている。「クラウドタングル」による検証や、反政府活動に参加する4人の情報提供者によれば、複数のアカウントを作成して「ツイッターチーム」を数十万人規模に膨らませ、反軍事政権のハッシュタグでトレンドを生み出している。

こうした戦術は世界中で一般的に見られるが、ロイターが取材した4人の研究者によれば、ミャンマーでは特に強い影響を発揮する可能性があるという。というのも、国民が情報のほとんどを既存の報道機関から直接ではなくSNS経由で入手しており、人口の半分以上がフェイスブックを日常的に利用しているからだ。

<「積極的に削除」>

国連によれば、クーデター発生以来、「タッマドー」は1000人以上の民間人を殺害、数千人を拘束している。ただし国軍側は、この推定値は誇張されており、反政府勢力によって殺害された兵士もいると主張している。

フェイスブックで新興市場諸国・アジア太平洋地域における公共政策担当ディレクターを務めるラファエル・フランケル氏は、ミャンマーにおけるフェイスブック上でのヘイトスピーチの約98%を「先手を打って」検知し、削除したとロイターに語った。

フランケル氏は、国軍が偽装アカウントの使用を続けていることに関する質問に対し「当社は『タッマドー』のアカウントを停止し、共謀による不適切な行動を繰り返し阻止した。これにより、当社のサービスを悪用して害をもたらすことは、以前よりも困難になっている」と説明している。

「これは非常に敵対的な問題であり、システム的に大規模なアカウント停止措置を適切に実施できるよう調整に努めている」という。

フェイスブックは、2018年以来、ミャンマー国軍関係者とつながりのあるアカウントやページを数百件停止したと述べている。これに先立って、ニューヨーク・タイムズは「ムスリム少数民族であるロヒンギャに対する暴力を先導するフェイクページの背後に、軍当局者の存在がある」といい、ロヒンギャは「2017年の国軍による弾圧で、70万人が国外に逃亡した」と報じた。またロイターの調査では、フェイスブックがロヒンギャに対するヘイトスピーチを野放しにしていたことが判明している。

一方ユーチューブは、ロイターが指摘したニュース配信を装う国軍寄りのチャンネル2件を「既に停止した」とし、「規約違反」コンテンツを監視していると述べている。ティックトックは、ガイドラインに違反したミャンマー国内のアカウント数千件を「積極的に削除」したとしている。

ツイッターは、情報操作の試みに対して警戒を怠っていないと述べている。テレグラムにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<「情報戦争」>

ミャンマーでは、首都ネピドーに「カカコム」という略称で知られる国軍の広報・情報生産部門があり、情報戦への取り組みの旗振り役を務めている。ニイ・スータ氏、リン・テット・アウン氏によれば、この部門には数百人の兵士が所属しているという。

「カカコムは、逮捕すべき、あるいは現場監視の対象とすべきであると判断した人物の情報を軍情報部に提供している」とリン・テット・アウン氏は言う。

軍を離脱した両氏によれば、この軍中央の部署では、国内各地や国軍の地域司令部、大隊レベルに配置された数十の小規模なSNS担当チームの作業を統括しているという。

国軍はクーデター以来、インターネット利用を何度か暫定的に制限しており、2月にはフェイスブックの利用を禁止した。だが同社のデータによれば、ミャンマーでは7月の時点でまだ2000万人が利用を続けているという。クーデター前の1月の数字は2800万人であり、研究者らによれば、仮想プライベートネットワーク(VPN)を利用して禁止措置を回避しているユーザーも多いという。

ニイ・スータ、リン・テット・アウン両氏によると、トラブルの兆候を監視している兵士らは、軍からの離脱を防ぐため、他の兵士の間に反発がないかを特に警戒している。「監視チーム」の一部には、戦闘任務に就くことを認められていない女性兵士が配属されていることが多いという。

軍を離脱した2人と、もう1人別の軍関係の情報提供者によれば、兵士とその家族らは総選挙前とクーデター後の2度にわたり、自分のSNSアカウントについて軍に申告するよう命じられた。軍事政権に批判的な、あるいはアウン・サン・スー・チー氏を支持するような内容を投稿しないよう警告されたという。

ニイ・スータ氏によれば、彼を初めとして軍を離脱した兵士らは、オンラインでの攻撃のターゲットになっている。

ロイターでは、数千人の兵士が参加しているテレグラム上のグループ2つを検証した。兵士らはグループ内で、彼らがいわゆる「スイカ」ではないかと疑う人々の身元や写真、SNS上のアカウント情報を交換していた。「スイカ」とは、表向きは軍事政権に従っているが、内心ではアウン・サン・スー・チー氏を支持している人々を指す。スー・チー氏率いるNLDのイメージカラーが赤であることから、「中は赤い」という趣旨である。

リン・テット・アウン、ニイ・スータ両氏によれば、彼らが軍を離脱したのは、クーデターに抗議しようという自発的な意思によるものだという。リン・テット・アウン氏は現在、ミャンマー国内で反政府勢力の訓練を手伝っている。

ニイ・スータ氏は所在を明らかにしていないが、軍からの離脱を望んでいる関係者を対象としたオンライン支援組織「ピープルズ・ソルジャーズ(人民の兵士)」を立ち上げたところだという。このグループはフェイスブック上で25万人以上のフォロワーを集めているが、クーデター以来、2000人の兵士が軍を離脱したと推定している。ロイターではこの数字の裏付けを取ることができなかった。

「軍で学んだ情報戦争の戦術を、軍事政権に対して使っている」とニイ・スータ氏は話している。

(Fanny Potkin記者、Wa Lone記者、翻訳:エァクレーレン)

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