ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア軍は損害甚大、「大規模動員か敗北か」との指摘も

2022年05月18日(水)17時53分

 ロシアはウクライナ南東部のマリウポリを完全に制圧しつつある。だが、マリウポリが属するドンバス地域全体を支配しようとする戦いは敗北の公算が高まってきた。写真はマリウポリで16日、アゾフスターリ製鉄所から負傷したウクライナ兵が退避する前に待機する親ロシア派武装勢力(2022年 ロイター/Alexander Ermochenko)

[キーウ/ハルキウ(ウクライナ) 17日 ロイター] - ロシアはウクライナ南東部のマリウポリを完全に制圧しつつある。だが、マリウポリが属するドンバス地域全体を支配しようとする戦いは敗北の公算が高まってきた。ロシア軍が甚だしい損害を受け、大きく前進するための兵力が不足しているからだ。

ウクライナ側は西側諸国の最新鋭兵器を装備して戦力が増強されており、プーチン大統領としては、力が弱まったウクライナ侵攻部隊を復活させるために、より多くの人員と装備を前線に投入するべきかどうか決断を迫られるかもしれない、と複数の専門家は話す。

ポーランドに拠点を置くコンサルティング企業ロチャンのディレクター、コンラッド・ムジカ氏はロシア軍について「現有の兵力のまま負けるか、(新たな)動員があるかのどちらかになる。その中間の事態はないと思う」と述べた。

ムジカ氏を含めた何人かの専門家によると、ウクライナに侵攻したロシア軍が直面している兵力と装備の損害は作戦続行が不可能な規模で、ウクライナ軍が西側の重砲を投入してきたのに伴ってロシア側が局面を打開できる余地はじわじわと狭まっている。

ロンドンのシンクタンク、RUSIのニール・メルビン氏は「時間が経過するとともにロシア軍が不利になるのは間違いない。彼らは装備、とりわけ新型ミサイルが枯渇している。そして当然ながら、ウクライナ軍はほぼ毎日強くなっている」と指摘した。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は17日、「万事計画通りに進んでいる。全ての目的が達成されることに疑いはない」と断言。しかしロシアの主要テレビ放送で今週、有力軍事専門家が国民に、ウクライナ情勢を巡ってプーチン氏が処方している「情報上の鎮静剤」をうのみにするのをやめるべきだと異例の批判を行った。

ロシアの退役将校ミハイル・ホダリョノク氏は、欧米からウクライナに供与される武器が増加している以上、ロシアにとって情勢は明らかに悪くなると警告した。

<変わる重点目標>

ロシア軍は2月24日にウクライナ侵攻を開始した後、当初目標としていたウクライナの首都キーウを陥落させることができず、4月19日に作戦が「第2段階」に入ったと称して南部ドンバス地域全部の確保を重視する方針に切り替え、部隊を移動させた。

この南部の戦いでは、今週になってロシア軍が要衝のマリウポリを手に入れた。82日におよぶ大規模爆撃に耐え、ウクライナ軍最後の拠点として抵抗を続けていたアゾフスターリ製鉄所を掌握したからだ。

ロシア軍侵攻前の段階でドンバス地域のおよそ3分の1は親ロシア派が実効支配し、現在はロシアがルガンスク州の約9割を制圧している。一方でドネツク州に関しては支配地域拡大のための重要都市スラビャンスクとクラマトルスクへの大規模侵攻はなお実行できていない。

非営利の米調査分析機関CNAでロシア軍を専門に研究しているマイケル・コフマン氏は「ロシア軍は戦力が劇的に弱まり、恐らく士気も相当低下している事態への対応に追われている。攻勢を続けようとする指揮官の意欲は減退し、ロシアの政治指導部全体は足元で戦術的敗北に見舞われながら、問題を先送りしているように見える」と語った。

ムジカ氏は、ロシア軍がドンバス地域の重点目標を変更し、ドネツク州でウクライナ軍の防衛態勢を打ち破れなかった後、大隊戦術グループ(BTG)を東方に振り向けていると説明。「イジウムから突破できなかったので、シエビエロドネツクとリマンに向かい、この両地でウクライナ軍を包囲することを狙っている可能性がある。これが起きるかどうかで、全く異なる展開になる」と述べた。

米ワシントンのシンクタンク、戦争研究所のジャック・キーン会長によると、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長が今月、前線部隊で発生している問題を解決するため現地を訪れたが、彼が成果を残した形跡は見当たらない。「攻勢は事実上止まっている」という。

ハルキウ近郊では、ウクライナ側が反撃を強化し、ロシア軍をハルキウに対する砲爆撃圏の外に追い出したばかりか、ある地点では国境まで押し返している。

ムジカ氏は、ウクライナ軍は今週、ハルキウ北方でロシアとの国境地帯の相当部分を確保するかもしれないとの見方を示した。

とはいえ、ウクライナ側もロシア軍の密集度がずっと高いドンバス地域でそうした急速な盛り返しはできそうにない。コフマン氏は「厳しく長い戦いになるだろう。ロシア軍は攻勢が不首尾に終わったものの、簡単には逃げ出さないし、降伏もしない」とくぎを刺した。

<砲兵戦>

ロシアとウクライナの戦争は「砲兵戦」の様相も帯びている。この点でウクライナ側に米国やカナダの「M777」155ミリりゅう弾砲などロシア側より射程の長い重砲が入ってきていることが、ウクライナ軍の優位につながる可能性がある。

ムジカ氏は「ウクライナ軍はロシア軍の射程圏外から砲撃し始めている。つまりロシア軍の対砲兵砲撃の脅威にさらされず、作戦を遂行できる」と解説し、砲兵力においてロシアはまだ量的には優勢だが、質的にもそうであるかは分からなくなったとみている。

コフマン氏とムジカ氏は、プーチン氏が追加兵力を派遣するとしても、編成に数カ月かかる恐れがあるとも説明。コフマン氏は「ロシアが過去に兵役経験のある男性を召集するため、少なくとも何らかの措置を準備しているのは非常にはっきりしている。それでも今のところは、プーチン氏は決定を先送りし、ロシア軍内部の状況が悪化するのを野放しにしている。現時点では今がロシア軍の最後の攻勢に見える」と述べた。

(Tom Balmforth 記者、Jonathan Landay 記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中