IHIは、ものづくりの技術を中核として、長きにわたって総合重工業を担ってきた。しかし今、ものづくりに適合してきた同社の企業文化や組織構造が、DXを阻む障壁になっている。コロナ禍や脱CO2といった大きな社会変容の波が押し寄せつつある中、IHIが立ち上げた、事業変革へ向けた新たな経営方針「プロジェクトChange」とは。何を目指し、どのようにDXを進めているのか、常務執行役員 高度情報マネジメント統括本部長の小宮義則氏が語る。

※本コンテンツは、2022年3月22日に開催されたJBpress主催「第12回 DXフォーラム」Day1の特別講演Ⅱ「IHIにおけるDXの概況と今後の方向性」の内容を採録したものです。

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事業環境の激変と自社組織のサイロ化に立ち向かうIHIの改革の全容

 嘉永6年(1853年)に幕府が石川島につくらせた造船所を起源に持つ石川島播磨工業株式会社は、以来、総合重工業として進化を続けてきた。2007年に株式会社IHIに社名を変更し、2019年には造船業を切り離して、現在は「資源・エネルギー・環境」「社会基盤・海洋」「産業システム・汎用機械」「航空・宇宙・防衛」の4つの事業領域と、その下に18のストラテジック・ビジネス・ユニット(SBU)を有している。

 そんなIHIにも社会変容の大波が押し寄せている。コロナ禍による航空機の大幅減便で、稼ぎ頭の航空エンジン関連事業は赤字に転じた。一方で、世界的なカーボンニュートラルの動きが、造船時代から培ってきた同社の燃焼技術に転換を迫る。また、コロナ禍によって、求められる働き方も大きく変わった。

「例えば、リモートワークでは『顔を突き合わせた方がよい』という強固な価値観が障壁になるように、従来の企業文化がさまざまな変化を阻んでいました。しかし、事業環境の激変を前に、会社として根本的に変わらなければならない時期に至り、中期経営方針を途中で改訂して『プロジェクトChange』を発足させたのです」と、IHIの小宮氏は当時を振り返る。

 さらに、もう1つ、小宮氏が「古い日本の製造業にありがち」と指摘する大きな問題点がある。ものづくりの専門性を重視し、SBUごとに独立してビジネスを完結させてきたため、横のつながりが欠如した「サイロ構造」の組織になっているのだ。

 こうした現状を踏まえて、IHIが進めている改革と基盤整備を概観したものが上の図だ。「ビジネスモデル改革」では、「モノ売り」から「コト売り」へ拡大するライフサイクルビジネス(LCB)へのDXを推進する。「業務プロセス改革」では効率性向上を顧客の価値と結び付けながら進める。「働き方改革」ではスマートワーク推進部を設置し「より賢い働き方」を模索する。

 そしてこれら3つの改革を支えるものとして、データに基づいて意思決定を行う「データドリブン経営」を基盤に位置付ける。同じく「成長事業の創出とDX」では、将来に向けた新しい形のソリューション提供を目指す。