古い工場に残されていた織機

 タオル産業が集積する愛媛県今治市。全国各地の伝統的な地場産業の例にもれず、今治のタオルもまた、輸入品や人口減の波に押されて縮小傾向にある。

 7年前、この地で90年続いていたある老舗タオル会社は、後継者不在により廃業を決めた。店じまいの手続きに入ったことを知った業界未経験の夫婦は取引先ゼロ、売り上げゼロで事業を引き継ぎ、今、伝統産業に新風を吹き込んでいる。株式会社丹後と「OLSIA」である。

 活気がなくなっていくふるさとに、何とかそよ風でも──。初期の思いを貫徹し、実践した夫婦の足跡をたどる。(河合達郎:フリーライター)

■第1章:決意

 株式会社丹後のタオル工場は、田畑に囲まれた場所に建つ。のどかな周辺環境とは裏腹に、工場内では何台もの織機がフル稼働し、ガシャガシャガシャとリズミカルな音を立てている。

「作業は 確実 丁寧」

 そう書かれた貼り紙は、こんがりと色褪せている。先代が掲げた教えまで、いまに引き継いでいる。

 ダイナミックに動く織機に対し、職人たちの作業は繊細で精密さが求められそうなものばかりだ。

 家庭の裁縫でも使うような小さな糸巻きから、織機に取り付ける巨大な糸巻きをつくる「延べ」と呼ばれる作業にあたる人。今まさに織られていくタオルをまじまじと見つめ、手作業で微修正にあたる人。カットされたタオルのフチをミシンにかけ、仕上げていく人。

 1本の糸からタオルが織りあがるまでに、いくつもの技が詰まっているのだということを実感する。

織り上がったタオルのフチを仕上げる職人たち