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焦点:岐路に立つ動画配信、「ネトフリを目指せ」時代は終焉か

2022年08月15日(月)09時04分

 米ハリウッドの今決算シーズンは、ウォルト・ディズニーがストリーミング動画配信サービスの加入者数でネットフリックスを抜き、「ネトフリを目指せ」の時代は終わったようにみえる。写真はネットフリックスのロゴ。4月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

[11日 ロイター] - 米ハリウッドの今決算シーズンは、ウォルト・ディズニーがストリーミング動画配信サービスの加入者数でネットフリックスを抜き、「ネトフリを目指せ」の時代は終わったようにみえる。ディズニーの健闘ぶりは、ストリーミング産業が拡大を続けるという期待も復活させた。しかし同社が特殊な存在であることを忘れてはならない。

業界は過去数年間、ネットフリックスの成功に倣うことを競い合ってきた。しかしここ2週間の発表を見ると、各社はストリーミングを事業戦略の中心に据えるというよりも、複数ある事業の1つとして位置付けるようになっている。

ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)のデービッド・ザスラフ最高経営責任者(CEO)は先週、アナリストに対し「当社には実質的に4つか5つ、6つの収入源がある。変化が激しく不確実性の大きい世の中においては(中略)、収入源を1つに絞るよりこの方がずっと安定感があり、ずっと好ましい」と説明した。

伝統的なメディア企業は直近の決算報告書で、不確実な経済状況を乗り切る上では従来型のテレビ放送のように、縮小はしているが安定的な事業が収益の柱になっていると指摘した。アナリストによると、加入者数の伸びが主な成功指標だったここ数年の流れが終わり、キャッシュフローが再び重視されるようになっている。

ハリウッドにこうした堅実な風潮が広がったのは、物価高騰が消費支出を脅かしているのに加え、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に伴う加入者の急増が終息したからだ。

ネットフリックスの急減速も影響した。加入者数の伸びが止まり、同社の株式時価総額は昨年11月に付けた3000億ドル余りのピークから約1000億ドルに減少している。

苦境はさらに深まる恐れもある。広告データ会社SMIによると、15カ月連続で増加していた全米の広告支出は6月、減少に転じた。背景には景気後退への懸念がある。

合併によって発足したばかりのWBDは先週、映画ストリーミング配信の「HBOマックス」を支えるために伝統的な映画・テレビ事業を犠牲にすることはもうやめると表明。これはストリーミング事業に注力してきた前経営陣に対する痛烈な非難となった。

同社はHBOマックスのSFシリーズ「デミモンド」や、漫画原作映画「バットガール」といった高コストのプロジェクトを打ち切り、第2・四半期に8億2500万ドルの評価損を計上した。

ライトシェッド・ベンチャーズのメディアアナリスト、リッチ・グリーンフィールド氏はワーナー・ブラザーズの動きについて「白旗を揚げたのだろう。完成するための痛みを引き受けられるほどの金銭力がないのだ」と解説した。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのメディアアナリスト、ジェシカ・リーフ・エーリック氏は、WBDが強みを生かす戦略に出たとみる。「メディア企業は全体を俯瞰(ふかん)し、従来型テレビかデジタルかを問わず、全てのプラットフォームで価値が高まっているコンテンツの収益化を試みることが不可欠だ」と述べた。

こうした考え方はメディア産業全体に広がっている。

ケーブルテレビ(CATV)運営大手コムキャストの娯楽部門NBCユニバーサルは、ストリーミング部門「ピーコック」への過剰投資を控えてきたことについて、先見の明があったと胸を張っている。

またパラマウント・グローバルのボブ・バキッシュCEOは先週、自社ストリーミング事業「パラマウント+」の成長を誇りながらも、5月27日に公開した大ヒット映画「トップガン マーヴェリック」を劇場だけで上映できるよう、ストリーミング配信を遅らせた決定を自画自賛した。

<抜きん出るディズニー>

業界全体がストリーミング事業を後退させているだけに、ディズニーが10日発表した第3・四半期(7月2日まで)決算が好調だったことは、ひときわ目を引く。

調査会社PPフォーサイトのアナリスト、パオロ・ペスカトーレ氏は、ディズニーが加入者数でネットフリックスを抜いたことは「ストリーミング戦争における重要な瞬間だった」と指摘。「両社一騎打ちの様相を呈している」と語る。

ディズニーはストリーミングサービスの総加入者数が約2億2100万人になり、ネットフリックスの2億2070万人を抜いたと発表。これを受けてディズニー株は急伸した。

ディズニーは、ネットフリックスを追撃するために事業を再編した最初の主要メディア企業だった。娯楽ブランドとしての世界的知名度を生かし、コンテンツに300億ドルもの投資を行うことで、ネットフリックスに競り勝った。

ただストリーミング事業においては、過去の実績が今後の成功を告げるとは限らない、とアナリストは指摘する。

サード・ブリッジのアナリスト、ジェーミー・ルムリー氏は「ディス二―にとって一番のリスクは、これまでの加入者増がマーベルやスターウォーズなど数々の主要フランチャイズ映画の完結時期と重なっていたことだ。次期コンテンツに移った時に加入者を増やす、あるいは維持できるかについては大きな不確実性が残っている」と述べた。

(Dawn Chmielewski記者、 Lisa Richwine記者) 

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